『アース・リバース』(三雲岳斗/角川スニーカー文庫)
第5回スニーカー大賞特別賞受賞作にして、三雲岳斗のスニーカー
文庫初登場作品。
裏表紙には次のように書かれています。
「……灼熱の溶岩に地表を覆われた世界――炎界(フレイムシー)。
人型航空平気≪天使もどき(デミ・エンジェル)≫で要塞都市(リダウ
ト)の防衛にあたっていたジグ・クルーガーは、不時着した敵機から這
い出した少女ティアを撃つことができない。少女は告げる――「世界
の果て(ワールド・エンド)を見に行こうと思ったのよ」と! 彼女を救っ
たために逃亡者となったシグを追い詰めるのは姉のレネが指揮する
高速巡航空母と、美しき女狙撃主、イザベル。世界の果て(ワールド・
エンド)に楽園の扉(ヘヴンズ・ゲイト)は存在するのか? 炎界の謎と
は?」
さて、本書の作者、三雲岳斗は98年に第5回電撃ゲーム小説大賞
で銀賞を、99年には第1回SF新人賞を受賞しています。そして、20
00年に受賞したのが、スニーカー大賞特別賞なのであり、その受賞
作がこの『アース・リバース』です。
シリーズものではなく、1冊で完結。良く出来たプロットと三雲岳斗の
丁寧でリズムのよい文章。わずか250ページ強の中で、無理なくこの
物語をまとめています。……私は三雲岳斗の作品をそれほど多くは
読んでいないので説得力はないかもしれませんが、氏の小説の中で1
番好きだ、ということを言っておきます。
シグのヒーロー性も、ヒロインのティアのキャラ付けも、あるいはステ
レオタイプ的なのかもしれません。けれども、それが逆に――そう、か
えって魅力的に仕立てている、と感じます。絵師の中北さんの力も、も
ちろん、有機的に機能しているのでしょう。
典型的で、正統的な冒険もの――ロボットもの。左の作品説明が、
誉め言葉として作用する、そんな作品です。
特に私が好きで好きでたまらないのが、ラストシーンです。
以前、2ちゃんねるのライトノベル板でしたか(詳しくは覚えていない
のですが)、「思わず鳥肌がたったシーン」を書き込むというスレがあり
まして、そのスレにカキコしてしまったほどです。おなじみの「同意」と
いうレスがついたので、少なくとも私だけがそう感じていたわけではな
いようです。
シグとティアが地上へ向かう、美しいシーン――。
やがて、遥か遠くに光が見える。地上の光だ。
これから先、どっちに向かえばいいのか?
そんなことを思って、シグは苦笑する。
考えるまでもないことだった。ティアの答えは最初から
わかりきっている。
訊けば、彼女は迷わずこう答えるだろう。
未来へ。 |
……もし、「未来」が「青い空。広大な大海原。美しい緑の大地――」
のような、光の射す美しい世界であるとするならば、本書『アース・リバ
ース』は確かに、読者をその魅力的な「未来」へと連れて行ってくれる
ことでしょう。
(ISBNコード 4-04-424101-5 /ページ数 262)
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